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中日新聞LINKED Another Story #01「適切な予防策で無症状感染の怖さに立ち向かった。」

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中日新聞LINKED Another Story #01「適切な予防策で無症状感染の怖さに立ち向かった。」

  • 新型コロナウイルス

中日新聞LINKED「新型コロナウイルスとの闘い JA愛知厚生連8病院 820日の軌跡」の取材を通じて、誌面ではお伝えしきれなかった職員の想いをもう一つの物語「Another Story」としてご紹介します。

第1回は「感染症内科医師」の物語です。

安城更生病院 感染症内科医師:鈴木 大介(以下 鈴木)
インタビュアー:Project LINKED事務局(以下 LINKED)
取材日:2022年1月6日

LINKED:鈴木先生の簡単なプロフィールから伺います。先生は安城更生病院で研修医としてスタートされたのですか?

鈴木:そうです。出身は千葉県ですが、大学が名古屋だったので、18歳から愛知県におります。当時、細かい進路は決めていませんでしたが、漠然と内科系に進みたいと考えていました。安城更生病院は、内科全体が強く、病院が新しかったのと、知っている先輩が何人かいたので、ここを希望して入職しました。働き始めて、いかに自分が力不足か思い知らされましたが、先輩や他職種の皆さんに熱心にご指導いただいたおかげで、少しずつですが成長できたと思っています。

LINKED:研修医を終えられてからは、どのような進路を選ばれたのですか?

鈴木:胃カメラなどを扱う消化器内科に進みました。安城更生病院で6年目まで勤務し、その後、大学の医局人事で小牧市民病院に赴任しました。消化器内科医として臨床経験を積むなかで、感染症の診断や治療に興味を持つようになり、感染症内科の道に進むことを決意しました。

LINKED:感染症内科医としては、どのように歩んでこられましたか?

鈴木:2012年から出身の千葉県にある亀田総合病院の感染症フェローシッププログラムで3年間のトレーニングを受けた後、3年間スタッフとして勤務しました。その後、藤田医科大学の感染症科の立ち上げに参加しました。それが2018年ですね。その途中で、安城更生病院での感染症内科の立ち上げのお話をいただき、自分を育ててくれた病院で自分が身につけたスキルを生かしたいと思い、こちらに戻ってきました。

LINKED:安城更生病院に赴任されたのはいつですか?

鈴木:赴任は2020年4月です。2019年6月から非常勤職員として週1回来ていました。赴任する直前に新型コロナの感染拡大が始まり、藤田医科大学でクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の患者さんの受け入れに関わっていました。

LINKED:2020年4月に赴任されて、感染症内科医として新型コロナ対応に突入していくわけですね。たくさんの患者さんを対応されたのですか?

鈴木:いえ、実は、私は患者さんの診断・治療に直接関わることは少なく、感染対策や予防策といった病院全体の運用や体制作りに取り組むのが主でした。当院の感染症内科は人数が少なく、治療と感染対策の両方に取り組むのは難しかったため、配慮いただきました。入院患者さんは呼吸器内科の先生方、外来患者さんは内科や救急外来の先生方が主に対応してくださいました。

LINKED:感染対策の管制塔としての役割を担われたと思いますが、どのように対応を組み立てていったのか教えてください。

鈴木:感染制御部という、感染対策を専門とするスタッフが集まった部門と連携して対応してきました。一番身近なところだと、感染防護具でしょうか。新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染や接触感染、エアロゾル感染がありますが、それぞれの感染経路を考慮して、どのような対策をとれば医療スタッフを守ることができるかを検討するのが最初でした。この処置は感染リスクが高いのでこの防護具を使う、この処置は感染リスクが低いのでそこまではやらなくてよい、といった感染防護具の使い分けのルールを決めました。

LINKED:感染防護具の不足による影響はありましたか?

鈴木:はい。感染防護具の在庫確保には苦慮しました。感染防護具は1回ごとの使い捨てが基本ですが、在庫が減ってきたため、安全を確保しつつも繰り返し使用するルールを定めました。しかし現場の職員のみなさんの不安は大きく、様々な意見をいただきました。「病院が出し渋っているのではないか」とか「こっちはこんなに不安な中でやっているのに」といった思いがあったと思います。かといって制限なく提供して、感染防護着が底をついた、というような自体は万が一にも避けなければなりません。在庫をチェックしながら、職員の皆さんの不安に耳を傾けつつ、安全を確保する。このバランスをとるのは結構大変でしたね。

LINKED:防護服を手作りされたのですか?

鈴木:幸い、そこまではしなくて済みました。国や県からも支援物資が届きましたし、近隣の企業さんからの寄付もいただきました。多少の使用制限をかけていたとはいえ、他の地域と比べると十分に使えていたのかもしれないです。そこはありがたかったですね。

LINKED:患者さんの診療を行う中でどういった対策をとっていったのか教えてください。

鈴木:新型コロナウイルス感染症は、もちろん重症化することも脅威ですが、一番厄介だったのが無症状でも他人に感染するリスクがあるという点です。今までの風邪やインフルエンザは、咳が出始めてからマスクをすればある程度感染を防げたのですが、新型コロナは症状が出たときにはすでに周りを感染させていることが多いのです。これは今までの感染症にないパターンです。例えば、職員や手術予定で入院している患者さんが、昨日は元気だったけれども、今日熱が出て新型コロナ検査が陽性だった場合、おとといからウイルスを伝播させていたということになるのです。これに対応しなければなりません。

LINKED:陽性者が出た時に行動履歴を全部調査して、対応をルール化したということですか?

鈴木:そういうことです。例えば、職員が陽性になったら、2日前から一緒に働いた人や受け持った患者さんの調査を行います。職員1人に対して周辺には何十人もの接触者がいますので、その全員を評価する必要が出てきます。濃厚接触者となった職員は一定期間自宅待機とし、患者さんは個室に入っていただく、などのルールを決めました。調査中は普段の業務を停止しなければならず、さらに調査の結果、職員が濃厚接触者に認定されれば欠員も出ますので、現場は相当混乱しました。

LINKED:院長先生から新型コロナに対応できたのは、職員の皆さんの献身的な協力があったからだと伺いましたが、医療職のマンパワーが減らざるを得ない状況の中で、入院診療を維持していくのは相当なご苦労ですね。

鈴木:大変だったと思います。私の仕事は、調査の結果に従って感染リスクが高いか低いか、自宅待機する必要があるかを淡々と判定することでした。現場の事情は忖度せずに「この方は感染リスクが高いので休ませてください」と言うだけです。しかし、例えば看護師さんは人手も限られていますし、1つの部署で複数の職員が出勤停止になると、他の部署から応援にきたり、休みを返上したり、本当に大変だったと思います。しかし「大変だから」と忖度して出勤を認め、その結果感染が拡大してしまったら大変なことになるので、割り切ってやっていました。職員の皆さんは理解してくれていたと思いますが、私たちの一言には感染対策の専門家としての重みがあるので、責任は重大でした。

LINKED:その他に感染予防に対する取り組みがあったら教えてください。

鈴木:感染者が出ると一大事ですが、感染するのは仕方ないこと、適切な対策をとっていたとしても誰にでも起こりえることです。ですので、感染しないための対策だけでなく、感染しても同僚や患者さんに感染させない対策、別の言い方をすると、同僚や患者さんを濃厚接触者にしないような対策を意識してきました。マスクの着用や、黙食の徹底ですね。おかげで今では、「万が一陽性者が出ても、みんなが対策しているので休まなくても大丈夫」という体制になってきました。病院全体が徐々にコロナに慣れて、うまく対応できるようになってきました。

LINKED:慣れて気が緩むのではなく、逆に経験を重ねて感染対策の強度が増していったのですね。

鈴木:第5波のはじめ頃は大変でしたが、後半になると職員みんながうまく対応できるようになり、乗り越えることができたと感じています。「慣れ」というより、職員のみなさんが工夫して感染対策の「コツ」を掴んで下さったのが、非常に心強かったです。2020年当初は、感染力がものすごく強いウイルスなのではないかと職員の多くが不安がっていましたが、実際に対応していくうちに「しっかりと感染対策をすればそこまで脅威ではない」という実感を得ることができたように思います。。

LINKED:新型コロナが未知の病ということで情報収集が重要だったのかなと思うのですが。

鈴木:非常に重要でした。厚生労働省や国立感染研究所などの公的機関から情報が出るなり、みんなで読み込んで対策に活かしていました。新型コロナに関する情報は日本より海外の方が早く出る傾向があったため、海外のガイドラインも参考にしました。ガイドラインの記載のわかりにくいところや、ガイドラインにも載っていないことについては、かつての同僚や他施設の専門家に相談したこともあります。他施設のやり方を参考にして、当院での運用に合わせて工夫しました。

LINKED:そういった情報を院内で共有して、状況に合わせた対策をしていったのですね。 鈴木:第3波の頃だったと思いますが、感染制御部だけでは手が回らなくなってきました。感染制御部は感染対策を統括する部署ですが、新型コロナ対応では、防護具の在庫管理や発熱外来の設置など病院全体の運用を担うことになり、1部門で対応することの限界を感じていました。そのような時に院長の命を受け立ち上がったのが「新型コロナウイルス対策本部」です。感染制御部だけでなく、各部門から医師、看護師、薬剤師、検査技師、事務、あらゆる職種で構成され、病院全体の新型コロナに関するあらゆることを協議します。議論の幅が広がり、決定事項も周知しやすくなりました。感染制御部としても本来業務である感染対策に専念できる体制が整いました。

LINKED:病院での活動以外に地域で先生が関わられたことはありますか?

鈴木:2020年の春頃に安城市から、コロナ禍における避難所の運用についてご相談をいただきました。市の担当の方が作成されたマニュアルを拝見し、科学的根拠に基づいて助言させていただきました。最終的には避難所運営の訓練が開催され、私も参加させていただきました。その他にも、行政や医師会から依頼を受けて、感染予防策について市民や地域の医師向けに講演会や勉強会を行いました。コロナ禍で集まることができないため、オンラインで行うことが多かったですね。

LINKED:科学的根拠に基づいた正しい情報に従って行動してくださいね、ということを地域に発信しようとされたということでしょうか。

鈴木:まさにその通りです。専門家から見ると有効性が乏しい対策に注力されていたり、逆に非常に重要な対策がおろそかになっていたり、という事例に出会うことがあります。感染経路について、新型コロナウイルスはこのような経路で感染するので、その経路のここをこういった方法でシャットアウトすれば、感染リスクが下がりますよ、という知識を正しく伝えられるよう情報発信を心掛けました。

LINKED:今回の経験を通じて、感染症の専門医として思うところがあれば教えてください。

鈴木:一部のメディアが科学的根拠の不確かな情報を発信し、私たちから見ると少し違和感のある内容なのですが、多くの一般の方が耳を傾けていることがあったように思います。また私たちが信頼している専門家の意見があまり取り上げられない一方で、タレント性のある非専門家が面白おかしく話した内容が、大きく取り上げられているということもありました。今回のような危機において、誠実な専門家が科学的根拠のある情報を正しくわかりやすく伝えられることの重要性を実感しました。

LINKED:最後に、コロナ禍が落ち着いた後のビジョンをお聞かせください。

鈴木:そうですね。元々私が好きだったのは、肺炎や膀胱炎などの患者さんの痰や尿を顕微鏡で観察して、その中に隠れている細菌や真菌(かび)を見つけ出し、その微生物によく効く抗生物質を考える、といった少々マニアックな業務でした。またそういった業務にゆっくり取り組みたいですが、コロナ禍はもうしばらく続くのではないかと感じています。自分の病院はもちろんですが、地域の医療機関や行政とも連携して、みんなでコロナ禍を乗り越えていけるよう、お役に立ちたいと考えています。

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