医療・健康・介護情報をわかりやすく発信

With Magazine

中日新聞LINKED Another Story【番外編】「感染対策を実践してもらうために、いかに情報を届けるか!」

中日新聞LINKED

中日新聞LINKED Another Story【番外編】「感染対策を実践してもらうために、いかに情報を届けるか!」

  • 新型コロナウイルス

中日新聞LINKED「新型コロナウイルスとの闘い JA愛知厚生連8病院 820日の軌跡」の取材を通じて、誌面ではお伝えしきれなかった職員の想いをもう一つの物語「Another Story」として14回にわたってお届けしてきました。

最終回の今回は「番外編」として、稲沢厚生病院の「ホワイトボード」のエピソードをご紹介します。

新聞記事を読んでくださった方の中には「この写真(ホワイトボード)は何だろう?」と疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。稲沢厚生病院では、患者さんや職員に新型コロナに関する情報をお伝えするのにホワイトボードを活用してきました。

ホワイトボードの書き手である那須さんにお話をうかがいました。

「感染対策を実践してもらうために、いかに情報を届けるか!」

稲沢厚生病院 医療安全・感染制御室:那須 裕子(以下 那須)
インタビュアー:林 菜緒(企画管理部 経営企画課)

取材日:令和4年5月31日

――那須さん、セラピーロボット「パロ」とともに登場!

那須:新型コロナ対策の説明会にさりげなくパロを置いておくと、みんな撫でたり抱っこしたり、職員の癒しになっています。院長先生も「院長室にごろごろさせておいていいよ」と仰っています。先生方はみんな強面なのにパロを見ると抱っこしていきます。みんなさみしがりやなんだなと思って……(笑)

――那須さんのプロフィールを簡単に教えていただけますか?

那須:医療安全・感染制御室の室長として医療安全や感染制御に携わってきました。学生時代を更生看護専門学校で過ごし、尾西病院(現稲沢厚生病院)に就職したので、JA愛知厚生連の「純粋培養」です。

――色々な部署を経験されていると思いますが、一番長く携わってきたのはどこですか?

那須:療養病棟です。当時の病院長から緩和ケア病棟を作ると言われ、「やりたい」と手を挙げていたのですが、実際に「やるぞ!」と言われたのは療養病棟の立ち上げでした。そこから介護に携わるようになって、高齢の患者さんたちに学ばせてもらいながら病棟作りをしてきました。

――療養病棟から医療安全に変わられたのですか?

那須:療養病棟では、患者さんの気持ちやご家族がどんな思いでいらっしゃるかを間近で教えてもらい、大きな経験となりました。しばらくして、突然「医療安全をやってもらうから」と言われ、医療安全へ道が敷かれていることを知りました。一般病棟も経験した方がいいということで病棟課長を1年弱勤めた後、当時の医療安全対策室に配属されました。

――コロナ禍となり、ホワイトボードで情報発信を始めたきっかけを教えてください。

那須:医療安全に携わるようになって、対策を立てても実行につながっていかないという課題にぶつかりました。特に「周知」については、現場の職員まで伝わらないという状況でした。「周知」とは何か考えていた時にノンテクニカルスキルが重要であることにたどり着きました。専門家から「頭で考えていることは見える化しないと伝わらない。シンプルにまとめなさい。」と教えられ、実践するようになりました。コロナの感染が拡がり始めた時に、事務局で対策を立てても意味が分からないと職員は協力してくれないだろうということで、感染対策委員会のメンバーでテーマごとに作戦を立てました。その時にホワイトボードを使いました。どうやって職員に周知するか考えた時に、「そのままホワイトボードに書いちゃえ」という発想が最初でした。

※ノンテクニカルスキル
コミュニケーション、チームワーク、リーダーシップ、状況認識、意思決定などの総称であり、専門的な知識や技術であるテクニカルスキルとともに、チーム医療における安全や質の確保に必要なものとされています。

――イラストがとてもお上手ですが、もともと得意だったのですか?

那須:「美術の成績が良かったんじゃない?」と言われることもありますが、そんなことはありませんでした。これまで患者指導に使うパンフレットを作ってきましたが、字ばかりだと読んでもらえないので、分かりやすくすることは看護学生時代からずっと大事にしてきました。相手に分かってもらうためにかみ砕いて伝える工夫はしてきたので、それが今になって活かされています。

――原点は患者さん向けのパンフレットなんですね。

那須:ある時、忙しくて病院に一回も来れないというご家族に人工肛門の家族指導が必要になりました。その時は、イラストを描いて注意点やポイントなどの注釈を簡単に書いて、交換日記のようにやり取りをしました。患者さんが退院後にトラブルがなかったか確認したら、一度もありませんでした。「こういう方法もある」ということをこのご家族に教えてもらいました。それから、施設に転院される患者さんのケアの引き継ぎは文章で書くことが一般的ですが、イラストを中心に注釈をつける形にしたことがあります。後日、施設を訪問した時に、患者さんから「あんたの書いたものを見てここの看護師さんがやっとりゃーすわ」と仰っていたので、使ってもらえていることが分かりました。

患者さん向けのホワイトボード

――患者さん向けのホワイトボードでは、どのような発信をしているのですか?

那須:新型コロナウイルスに感染した時の症状や感染対策、ワクチン接種のお知らせなどをしています。外国人の患者さんも多いので、症状があるときは発熱外来を受診するよう分かりやすくお伝えしています。

――患者さんからの反響はありましたか?

那須:当院の巡回バスの運転手さんが書き換えるたびに写真を撮って、家族に説明しているそうです。総合案内に立っている職員から「患者さんから写真に撮っていいかと聞かれたけどいいよね」と聞かれるので、皆さんに活用していただいているんだと思います。

――職員向けのホワイトボードには、どのような発信をしているのですか?

那須:中日新聞LINKEDのLINE公式アカウントに送られてくる情報を参考に、職員が知りたそうな内容を選んでいます。私が知りたいことを書くと「あれ、よく分からなかったから書いてくれてありがとう」と感想をいただけるので、みんな知りたいことは同じなんだと思いました。

――歴代総理大臣もイラストで登場されていましたね。

一番評判が良かったのはアベノマスクを着けた安倍元首相で、みんな写真を撮っていました。アベノマスクがなくなった時にはふつうのサージカルマスクに書き換えました。彼らには、私たちから言いにくいことを伝えてもらっていました。

――病院内で周知したいことがある時は会議、電子カルテ、メール、那須さんのホワイトボードに書いてもらうと聞きましたが、4番目のツールとして活用されているのですね。

那須:院長先生から書いてほしいと依頼されることがあります。「これはそんな位置づけなんですか?」と聞いたら、「みんなが見るから」と言ってくださって。確かに先生たちに「こうですよね?」と言うと「あ~、ホワイトボードに書いてあったやつね」となるので、ちゃんと見てるんだと思います。心の中で「メールは読んでないのか!」と思いながら……。

――職員に浸透していますよね。

那須:重要な連絡手段になってしまいました。私のところに「ホワイトボードを貸してください」と依頼が来ることもあります。「ホワイトボード課ではないですよ、施設課に言ってください」と言うと、今度は施設課が私に聞きに来ます(笑)

――写真撮影をしている時も職員の皆さんが「何やってるの?」と集まってこられたので、普段から注目しているんだと感じました。

那須:誰が書いているのか知らない職員もいて、たまに廊下で消えたところをつぎ足して書いていると「えー! 那須さんが書いていたの? 生で書いているところを見れて光栄です」と言われたこともあります。「そんなもんじゃないよ、ただの落書きと思ってよ」と言っても、「こうやって書いているんですね」と興味津々で見ていってくれます。

職員向けのホワイトボード

――今後、ホワイトボードはどうなるのでしょう?

那須:課長と「いつまでやるんだろう」と相談することはあります。ただ、終息の見通しが立たない中、少しでも気を抜くと感染が拡がっていくので、目新しい情報はなくても繰り返し情報を発信して、「感染しないでね」「家族に持って帰らないでね」というメッセージはしばらく続けていかなくてはいけないと思っています。終息してからのことはまだ何も考えていません(笑)

――ホワイトボードは病院内でどのような役割を果たしてきたのでしょうか?

那須:今回のコロナ対策では、感染対策委員会が立てた作戦を職員が大事に守ってくれました。当院では大きなクラスターは発生していないので、協力してくれた職員には感謝しかありません。ホワイトボードは、病院でこういう対策がされるんだということをじわじわと広めてくれました。「ホワイトボードに書いてありましたね」とは言ってもらえますが、「議事録に書いてありましたね」とは誰も言ってくれない。字面だけでは職員に浸透しないことがよく分かりました。

――那須さんのホワイトボードは決して文字が少ないわけではない。それでも職員が立ち止まって読んでくれる秘訣があるのでしょうか?

那須:「和恵さん」と「百ちゃん(ももちゃん)」というキャラクターが大活躍してくれています。和恵さんは当院の実在の看護師です。今ではファンもたくさんいて、和恵さんの言うことはみんな読んでくれるので、必ず伝えたい情報は「これを守ってくれ~」と和恵さんに言ってもらっています。「百ちゃん」は実在の内科の医師です。「百ちゃん」を書くと医師が見てくれるので、さりげなくサポートしてもらっています。ただ、正面は似ていなかったので、いつも後ろ姿で登場しています(笑)

――ホワイトボードの中にいろんな仕掛けがあるんですね。

那須:ホワイトボードに出てきたキャラクターをプラバンにして配ったこともあります。「ご自由にお取りください」と置いておいたら即日完売になって、みんな名札や携帯電話にぶらさげて使っています。患者さんからも欲しいと言われたので、正面玄関に置いておいたらあっという間になくなってしまいました。一時、週末はプラバンの制作にかかりっきりで大変でした。家族から「あんたは病院で何をやっているんだ」と言われてしまいました。

※プラバン(プラ板)
薄く延ばされたプラスチックの板のこと。プラ板に絵を書き、加熱して縮めるとキーホルダーなどの作品を作ることができます。

――那須さんが「伝わる」ことにこだわる理由は何ですか?

那須:誰かは知っていて、誰かは知らない。そのせいでリスクに巻き込まれてほしくないという想いがあるからです。情報を10流しても下のスタッフには2しか伝わっていないということをよく経験します。知らないことがリスクにつながるので、「ちゃんと伝えたい」という気持ちは強くあります。これまで「周知」というのはずっと課題でした。「周知してください」と簡単に言う人を見ると、「10人のうち何人に届いているか知ってるの?」と言いたくなる時もあります。けれど、いつでも見れるものがポンと置いてあって、実際に見て、そうだったんだと振り返ることができたのなら、今回ホワイトボードを活用したのは大成功だったと思います。

JA愛知厚生連 SNS

SNSで皆さんの生活に役立つ
医療・健康情報をお届けしています。

  • Instagram
  • facebook
  • LINE 公式アカウント